戦前の子どもは、幼稚園や小学校ではともかく、家に帰ってからの外遊びでは、男の子女の子が入り混じって遊ぶことはあまりなかったように記憶している。
三つ四つという年齢でみそっかすに扱われていた私は、「かごめかごめ」や「花いちもんめ」などの外遊びに、女の子に混じって遊んだ。だがもう小学校の低学年になると、ガキ仲間の男の子から「男と女の豆入り、豆入りったら豆入り」と囃し立てられるのだ。だから、「花いちもんめ」で楽しく遊んだ記憶は、遠い遠い昔のこと、今は歌詞さえ忘れて、松本あたりでどんな言い回しがされていたのか、どうしてもはっきりとは浮かばない。
調べてみると、「花いちもんめ」は多少節回しやことばが異なっていても、ほぼ日本全国に流布した童遊びだった。「とおりゃんせ」や「かごめかごめ」より、むしろポピュラーな遊びだったのだろう。ふたつの組に分かれて競う、一種のゲームだったからか。
人数は何人でも。多いほど面白みが増す。向き合って二列に並び、はじめ代表がジャンケン、勝った組から歌に合わせて前進、負けた組は同じテンポで後退する。歌の各フレーズの終わりに両組一緒に片足を挙げて拍子を取る。うろ覚えの歌詞を、新潟県高田に伝承するわらべ唄にアレンジして次にしるす。多分、長野市あたりがこれと同じではなかったか。各組をそれぞれA・Bとしよう。各フレーズごとに前進は交互。
A 勝って嬉しい花いちもんめ
B 負けてくやしい花いちもんめ
A 隣のおばさんちょっとおいで
B 鬼がこわくていかれない
A お釜かぶってちょっとおいで
B お釜底抜けいかれない
A 座ぶとんかぶってちょっとおいで
B 座ぶとんボロボロいかれない
A あの子が欲しい
B あの子じゃわからん
A この子が欲しい
B この子じゃわからん
A 相談しましょ
B そうしましょ
ここで、各組の子どもは頭を寄せあいヒソヒソ。決まったところで、
A ○○ちゃんとりたい花いちもんめ
B ××ちゃんとりたい花いちもんめ
指名されたふたりが中央に出てジャンケン、負けた子は勝ち組へ加えられる。こうして遊戯を繰り返し、人数の多い組が勝ちとなる。少人数でやると、負けた組はゼロになるだろう。江戸期の「子とり(親の後ろに子どもが一列に取りつき、鬼になったひとりが最後尾の子にタッチしようとするのを親役の子が妨害、うしろの子は逃げる)」と関連があるのかもしれない。どっちも子もらい遊びだから、「子とり」のゲームなのだ。もし、「花いちもんめ」の源流が京都の子買い遊びから発するという、一部の研究者の説が真実なら、この想像は当たりだろう。
第4章👉「花いちもんめ その2」