三匹の鮎

2008.06.08 Sunday

 あちらこちらの河川から、鮎解禁のニュースが届くこの頃。今年ももうじき、鮎の季節・夏がやってくる。
 南北に長い長野県、鮎解禁の話題も南から。天竜川の流れる飯田市・下伊那の解禁は6月第一週の週末である。
 鮎・・・美味しいんだよね・・・最高だよね・・・夏はやっぱり鮎の塩焼きだよね、なんてことを考えながら本棚の隅に括り付けられた鮎竿に目をやる私。 ・・・鮎竿?
 この貧乏長家に何故、竿の中でも高価と言われる鮎竿が?
 実は先日の釣り大会の時に、子供の面倒を見てくださっていたお兄さんと鮎の話をしていたら「鮎やるなら竿、あげますよ」と言われ、頂いてしまったのだ。

 ん?・・・デジャ・ヴのようなこの場面。
 確か渓流竿を頂いたときもこんなノリだったような。で、その後一年以上放置されていたんだっけ・・・。
 しかし、いやさらに?である。鮎(友釣り)ばかりは、竿だけあってもどうにもならない(らしい)。やるには相当な覚悟が必要(らしいの)だ。
 竿のみならず、日釣り券も高くオトリも買わなければならない、引船も必要だし、その他仕掛け一式が高価なことも聞いていた。
 お兄さん達は「これ(鮎竿)だけ持って奈良井川の解禁日に来れば(釣り大会のスタッフの)誰かしらいるから、教えてあげるよ」と言ってくれたけど・・・。
 一番近い地元の鮎釣りポイントは、オトリセンターのある奈良井川、車で15分。
 しかし、である。
 護岸だらけで工事がしょっちゅう入るとは言え、楢川、塩尻、松本を経て梓川に合流する流路延長56.3kmの一級河川でこの私が鮎釣り???

 そんなある日、飯田のヒラちゃんと下伊那の鮎解禁日の様子を電話で話していたら
 「今日けっこう(鮎の数が)出てるし、明日(解禁翌日)の松川(天竜川の支流)なら、オマエでも釣れるかもしれんぞ。」なんて言うではないか。
 
マジ?この私でも?
 あんなに鮎釣りは難しいとか大変とか言っていたヒラちゃんが、『この私でも釣れる』なんて言う事は本当にこの私でも釣れるかも!

 と言うことで、解禁翌日の日曜日の朝、風邪が治ったばかりで留守番の子供にガッツポーズを作り
 「頑張って釣ってくるからね!お母ちゃんがダメでもコーチはあのヒラちゃんだから、晩ごはんは鮎づくしだよ!」と言うと
 「ガンバってね〜♪」と、ニコニコとご機嫌な子供。
 (うるさいのがいないから今日はハネを延ばしほうだいだ、えへへへへ♪♪)と顔に書いてある。

 2シーターの愛車に数少ない釣道具を積み込んで高速を飛ばし、飯田の糸忠さんで本日の先生・ヒラちゃんと落ち合い、オトリを2匹を持っていざ、川へ。

 って・・・・・え、チョッと待って。ここ、こんな町の中でやるの(汗)なんか恥ずかしいじゃん・・・(涙)
 松本で言えば市街地に向かって流れる「田川」や「女鳥羽川」といったところの飯田「松川」。
 しかし夏になるとしょっちゅう川が干上がったり、大雨が降るとすぐ増水したりする田川に比べて、この松川は水量豊かな川のよう。水底にはコケの乗った大石が沈んでいる。護岸はコンクリートだがところどころ古い石積みも残り、ヨシが茂っている。
 田川だってその昔(昭和のはじめ)には船が行きかっていたのだ。人間の暮らしにあわせて、いかに川の様子が変わってしまったことか。
 塩尻の奈良井川漁協は支流の鎖川にも鮎を放流しているそうだ。
 松本に鮎の放流が無いのは、川の問題なんだろうか?

 買ってきたオトリを使って、鼻カンのつけ方と、チバリの打ち方を教わる。
 そして最初のオトリをちょっと泳がせただけで、ヒラ先生は鮎を釣り上げた。鮎釣りと言うと派手なアクションを想像していたけれど、いつの間にか当たり前のように二匹の鮎をタモに入れているので、写真を撮るヒマも無い。
 養殖鮎のオトリを釣れた元気の良い鮎に交換、私は少し離れて先生の手返しを後ろから観察する・・・
 ・・・ヒマも無く、私が目をパチパチしている間にもう鮎は換わっている。ものの数秒だろうか?そして泳がせて・・・
 あ、また釣れた。
 先生、『若い頃は夏と言うと鮎の事しか頭に無かった(ご本人談)』と言うだけのことはある。

 私に竿を任せる前に、先生がこうして瞬く間に四匹の野鮎(川で育った鮎)を揃えてくれたのは、養殖の鮎は川の中での泳ぎが下手で、野鮎に「追い」の行動を誘発させにくいことと、養殖鮎は鼻カンを通す時もグニグニと岩魚のように動いて、私にはたぶん無理(苦笑)という理由なんだそうだ。
 さあいよいよ私も竿を持って、初体験・鮎釣り教室の始まりだ。初めてだからと、いただいたマイ竿よりも軽い先生の竿をお借りする。それでも、竿を延ばすと両手で持っても私にはチョト、シンドイ。
 お腹に竿尻を当て、両手は添えるだけという持ち方を教わる。これなら、なんとか持っていられそうだ。

 さてオトリを持つ前に、川に手を浸けて冷やすんでしょ知ってるわよ。え?もっとしっかり、腕まで浸けてよく冷やせ?
 ・・・へぇ〜、徹底してるんだね。やはり読み漁った知識は浅いなぁ。
 タモの中へ戻された鮎はまだ小さくて、私の手の中にすっぽり入ってしまいそう。
 まず鼻カンを外す。・・・・・・・・はずす・・・
 ・・・・・・は、外れない(汗汗)
 どこまで力をかけて引っ張ったらよいのかもわからない。先生はスポ、という感じで瞬時に抜いて「ハイもう一度、せっかくだから通す所から」
 えぇーと、左手で優しく持って頭を指で目隠しして、鼻にD型をした金具を通す。・・・・・・とおす・・・
 ・・・・・・と、通らない(汗汗汗)
 ああやってこうやって、と教えて貰ったらある角度でスッと入った。
あ〜〜〜〜、良かった(涙)「じゃもう一度」えっ!!??そんな殺生(まさに)な・・・
 そうかみんな弱ったらいけないから、この鮎太郎(なのか鮎子なのか)には私の初体験の犠牲になって貰うと言うことか。
 それにしても・・・・・また、抜けない(涙)
 水の中で鮎を休ませながら、やや思いきって引いたらなんとか抜けた。入れるときは角度を間違えなければスッと入るが、抜く時は少し抵抗がある。とりあえず、もう一度鼻カンを通してチバリを打ち、やっとこさ、「泳がせ釣り」開始である。

 鮎の友釣りのコツは、いかにオトリ鮎を上手に泳がせるか、ということらしい。
 「上手」というのは、オトリが弱らないように自由に泳がせつつも、人間が行かせたい所にオトリに泳いで行ってもらうこと・・なんだけど「鮎に好きなように泳いでもらえば良いよ。」・・・・ってそんな簡単に言われても!


 鼻が痛くて怒ってるのかしら。そりゃそうだよね。でもなんとなくアッチコッチ行ってくれるようになったみたい。糸にかけるテンションの強さや、竿の向きなどで鮎をコントロールするのね。あ、違うの今のはアタリじゃないの、私が竿を動かすたんびに目印がピョコピョコしちゃうのよ(涙)テンションかけ過ぎると鮎がイヤイヤするのね、本当だ。

 ・・・なんて頭で考えてはいても、実のところ竿を持つのに慣れるだけで他は余裕ゼロの私、とりあえず鮎を引っ張らないようにと目印を睨みつけ目はギンギン、竿を持つ腕は固まって肩がカチンコチンである。十年使っていると言う物モチの良い先生の竿は、値段を聞いたら三十ン万円(!!)折ったらどうしようと余計に緊張するのである。
 それなのにヒラ先生は隣りでノンビリタバコをふかしている。
 「鮎がかかっても、竿をいきなり上げないように」ハイハイ、でもなんで?あ、かかった!「だからいきなり上げちゃダメだって!」なんでよぅ〜。って、それよりもこれからどうしたら!?
 上げちゃダメと言われると下げるしかないのだが、水面をバシャバシャ叩きながら竿からぶる下がる哀れな二匹の鮎。
 「鮎を水面に入れながら寄せて来て」
だからそれができないんです〜(涙)
 ・・・先生の助けを借りて鮎はなんとかタモの中へ。
 「最初は掛かりが甘い場合があるから、いきなり上げるとバレちゃうんだよ。」・・・なるほど。
 でも・・・・・・・
 取り込みは補助して貰ったが、オトリを自分でセットして泳がせて、そして私にも鮎が釣れた!(心の中で涙を流し万歳三唱。)
 鮎ってとっても姿の良い魚だと思っていたけど、こうして生きている鮎を改めて見ると本当に奇麗だ。
 特に、オシャレな黒い模様の入った背ビレは大きく天に向かって張り出し、先端が大きく尖って、ヒラヒラと何とも優雅。

 しかも自分で川で釣った鮎とくればもう・・・・え?なんですか先生、いつまでもタモに入れてないで早くしろ?・・・。
 はいはい。鮎釣りは忙しいのだ。
 ここでまた、抜けない!を繰り返しながらなんとか再度オトリをセットし川に放す。
 こうして放すたびに鮎は色んな動きをする。鮎が違うんだしその時の鮎の気分もあるんだし竿を持つ私の問題もあるし(・・・これが一番かな)当然なんだろうけれど、どうも鮎にも「個性」というのか「性格」があるように思えて仕方ない。

 ある鮎は行ったり来たり、迷走してみたり(これは私のほうの都合だとは思うが)また別の鮎はスーッと泳いで行くが「そこに一体何があるんだ?(石があるわけでもなし)」という場所で暫しボーっとし、またスーッと泳ぎだしたかと思うと「だからそこの何が面白いの・・・」という別の場所でまたボーっ・・・。
 更には川に入れたとたん川を横切るようにダッシュして、鮎が付いていそうな良い場所を元気に徘徊してくれつつ上流へ上っていき、こちらが鮎について川を歩かなければならなかったり・・・


 それにしてもこんな大層なものを体にくっつけられたらイヤんなっちゃって何もする気にならないどころか悲観してやる気なくしちゃうのが普通よね。
 ・・・・それなのに、なんで鮎ってこんなに泳いでくれるの?


 面白い。面白過ぎる。

 物心ついたときからダンゴ虫からチョウチョの幼虫・オタマジャクシ・カナヘビ・犬猫鳥にいたるまで、あらゆる生きものを拾ってきたり家に持ち込んだり飼ったりしていた私。そんな子供の頃のある日、どうしてもトンボの散歩をさせたくて、裁縫箱から持ち出した木綿糸を赤トンボの体にくくりつけ飛ばしてみたが、トンボは飛ばなかった。
 今思えば糸の重さに耐えられなかったのか、いびられて弱ってしまったのか(両方だろうな)・・・
 そう言えば伝書鳩にも憧れた。鳩は流石に飼えなかったが。

 手に持った長い竿のそのまた先の長い糸に繋いだ奇麗な鮎が、川の中を散歩している。
 そしてうまくするともう一匹、連れてくるのである。
 この私にもあった可愛かった幼い日のことを思い出し、あの時の願いがやっと叶ったと、心の中でまた涙。

 面白い。面白過ぎる。

 その後かかった鮎をやっとの思いで寄せてきたら足の周りでぐるぐる泳がれて、外そうとしてくれた先生の指をイカリバリが釣ってしまったり、オトリを放す時にやはりイカリバリで自分の指を釣ってしまったり、私の腰につけていた引船が段差のある流れの強い場所で外れてしまい20メートルも流されて、先生を走らせたり(大汗)とトラブルはあったものの、私は三匹の鮎を掛けることが出来た。

 朝から曇り空で肌寒く、バカ長では川に浸かっている足が冷たかった。それが昼近くなり日が射してきてこれからもっと鮎が掛かり出すのでは、と思っていたら、お天気になると同時に不思議とパタリとアタリが無くなってしまった。
 水面下で休戦協定でも結ばれちゃったんだろうか?・・・こうなるととたんにつまらないんである。
 そこでヒラちゃんに竿を返して暫し泳がせていただくが、やはりアタリなし。一段降りたポイントでもう一度オトリを泳がせるが、やはりアタリ無し。滞在時間も限られていたのと昼を回ってお腹もすいていたので、ここで終了。

 川にいたのは、だいたい三時間くらいだろうか。
 三匹という釣果は世間からみてどうであっても、私にしてみたら出来すぎである。
 本当に、今日は私でも釣れた(手取り足取りだったけれど)。

 先生はこの松川で、何人かの人に鮎釣りを教えたんだそうだ。中には子供もいたそうな。
 私でも川の中に入って釣ることができたし、鮎もまだ小さいこの時期なら初めてでも女性や子供でも、鮎をかけて取り込むことも可能だろう。
 やっぱり最初が面白くないと後が続かない。
 町中を流れる松川、堤防沿いには家や店舗が立ち並び、買い物帰りの叔母ちゃんが川沿いを歩き、近所の子供たちがギャラリーになる。最初はやはり気が引けたけれど(笑)そんな場所で鮎やアマゴが釣れるんだから、飯田という町は釣りをするにはとても良い環境なんだな、と羨ましくも思った。
 そこでちょっと気になったのは、女性はともかく子供・・・というのか学生というのか、若い人の姿を日曜なのにまったく見なかったことだ。
 帰り道で、やはり初めて鮎をやるという男の人を教えていた方に会った。
 私が川に入る前から付き添って教えていた方だ。このときはもう生徒さんは一人で竿を操っていて、この日二十匹以上釣ったそうだ。
 この町には鮎釣りの先生はたくさんいるのだから、若い人ももっとやったら良いのに、もったいないことだ、そう思った。
 先生の釣ってくれた四匹にオトリを入れて、九匹の鮎のオミヤゲができた。
 結果報告で寄った糸忠さんで、遠山へ行ってちょうど帰ってきたおぼちゃんと遭遇。ものすごく久々の出会いを喜んで、釣れたアマゴを見せてもらう。
 やっぱり生きている魚は奇麗だね(彼はいつも、クーラーにブクブクを付けて魚を生かしたまま搬送するのだ)。
 これまた遠山から帰ってきた名人からタケノコのオミヤゲをいただいて、お世話になったみなさんにお礼を言って一路松本へ。

 「ただいま〜」と家へ入っていくと、子供は『普段は原則禁止、許可しても三十分まで』のインターネットをしていた。(いったい何時間やってたんだ?)
 まだ小さい九匹の鮎は、から揚げと南蛮漬けにする。
 鮎の下ごしらえと同時進行でタケノコを処理していたら時間はなんと八時半、お腹はペコペコだったし、美味しいオカズとビールが胃に滲みてモウ最高!
 お腹も気分も、ひとしきり落ち着いた所でヒラちゃんに
 「今日は大変お世話になりました。お疲れ様でした」とお礼の連絡をすると、
 「次は引き抜きの練習ね」 え、つ、次??て言うか寄せて取り込むのも満足にできてないのに・・・?

 とか言いながら、う〜ん、バカ長で鮎釣りは辛かったんだよね、ウェーダー、買っちゃおうかな〜・・・と頭の中で考える私・・・。
 買うならウェーディングシューズが使えるソックス型、でも値が張る。そして月イチで鮎釣りをしても今シーズンの使用頻度は三、四回・・・・あ、でも渓流でも使えるんだし子供もそれでOKじゃん?
 あ、まずい、あるもの主義で高価な道具は買わない私だったのに。
 しかもサイズが無いという理由でこの間高いウェーディングシューズを買ったばっかりなのに・・・。

 しかし、思えばあの最初の釣り大会から始まったこの不思議なわが家の変化。子供はともかく、この私が釣り?
 しかも、鮎釣り?

 どうなる、釣り人への道・・・・ いやどうなる、わが家の家計・・・。

川で遊ぼう
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