医者の話


子供の頃からお馴染みの細菌感染症になっちゃって、薬をもらいに医者へ行ってきた。
この先生はもう10年ほどのお付き合いなので、私のかかりつけと言っていいのだろう。

子供がまだ小さいころ、看護師の友人に「あの先生、いいよぉ~(そこで働いているわけではないので患者として行ったらしい)」と言われ、当時3歳の息子が年中具合を悪くして、しまいには自家中毒を繰り返し、参っていた私はその「いいよぉ~」という医者へ鞍替えした。
結果、良かったかどうかは別として(たぶん良かったのだろう)、私はその先生のファンになってしまった。

この先生、ものすごく口が悪い。
ここ数年は、私が行くと「おめえ彼氏はできたか。まだ?寂しいじゃねえか、おい」(うるさいな、ほっといてください)
「もう来るなって言っただろ。また来たのか」(好きで来ているわけでは…いえいえ、好きです、く、薬を)
また、先生は一応私を「芸術分野」カテゴリに分類しているらしく、よくそっち方面の話を振られるのだが、
「なんだおめえ、知らねえのか!?ちゃんと勉強してたのかよ」(イタたたた、耳が痛い)。

今日も待合室に聞こえてくる先生の話は相変わらずの調子で、診察室に入ると目の前の壁からは相も変わらず巨大なプレイメイトのヌードカレンダーが見下ろしている。
「でどうだ、その後は」と来たので何が?彼氏?仕事?絵?と考えながら
「はあ、おかげさまで仕事もぼちぼち増えてきましてバタバタしちゃって」と答えると
「仕事なんてものななあ、増えればいいってもんじゃないんだよ」(えっそう?…?)
「あ、なので今年は絵の出展をお断りしてしまいました(去年からぼちぼち絵も描き始めていた)なんだか気持ちに余裕がなくて」
「ほら、な?ざまあミロ、そうやって世間と日常に埋没していくんだよ、ケケッ」だって。

これだけの無駄口を患者に大サービスしながらこの先生、お客の…もとい患者のさばき方が実にうまい。評判がいいので混むのだが、その割りに待たされた気がしない。一人で朝から胃カメラを入れながら(と言うのか?)、合間に風邪やら何やらの患者を相手にし、私だけでなくすべての患者とこの調子でしゃべっている。プロフエッショナルだ。

よく先生の好きな「職人」の話になるのだが、「あのなコスト計算ができなきゃ本物の職人って言わねえんだよ(そうかもしれない)」なんてことも言う。…今日も何回か聞いた装丁職人の話の流れから木曾漆器の話題になり「木曾が元気なくてな」と、木曾漆器のよさをいかにして世界にアピールするかという、実際に起こした先生の行動を語ってくださった。

やっぱり、おもしろい。
この先生、私の家から少し遠いので、お馴染みの病が出るたびに近くの病院ですませていたことをちょっと後悔した。
注射を打って、数種類の薬を一週間分出すその先生に比べ、この口の悪い先生は「とりあえず抗菌剤を3日分出す。で様子を見なさい、金曜日の夕方来れる?調子が良くなってももう一回見せて(これもいつものことだ)」と薬は一種類3日分だけ。同じ病でも薬のパターンは違うみたい。

この先生のおしゃべり、実は無駄口などではなく、患者の心を覗き診るためなのかもしれない…。


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